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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(オ)274号 判決

主文

理由

上告代理人草信英明の上告理由について。

土地の賃貸人から賃借人に対して賃料増額請求なされた後、これを契機として申し立てられた賃料増額に関する調停において、右請求の日以後の賃料について増額が合意されたときは、特段の事情のないかぎり、賃借人において右増額分も本来は旧賃料とともに支払われるべきであつたことをも認めたものであつて、その履行期はすでに過ぎていると解するのを相当とするから、増額分の支払につき調停において履行期の合意がなされなかつたときは、即時その履行期が到来するものというべきである。

そうすると、本件において、右増額分支払債務の履行期は調停の成立した昭和四四年四月二八日であり、右債務を期限の定めのないものとし、上告人がその催告をした昭和四四年五月二日に始めて履行期が到来したとする原審の判断は違法といわなければならない。

しかしながら、右履行期が昭和四四年四月二八日に到来していたことを斟酌しても、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人の本件債務の履行遅滞が、賃貸人と賃借人間の信頼関係を破壊するようなものではないとして、上告人の本件賃貸借契約の解除は権利の濫用で無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。その他原判決に所論の違法はなく(なお、原判決中所論「一万二〇〇〇円」の記載は「一万一二〇〇円」の誤記と認める。)、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫)

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